一人の月が二人になって、空から寂しく笑われる夜に
奪われた体温を引き摺りながら、生温くつたうそれを拭い続けた。
何か黒くて不愉快なものでも飲み込んでしまったような
酷く落ち着かない心地悪さが、せりあがっては落ちてくる。

こんな時でも背を撫でてくれる懐かしさを待っていたり、と
脆弱な心を覆う大きな手を、無防備な意識は探していた。

知っている。
まだ消化していないあの言葉の意味も、その後ろは空白だということも。
そこに文字を書き足すことは出来るけど、読んでほしい声が足りない。

ああ、私で成る世界から、彼は出ていってしまったんだ。
境界線にはじかれて積もっていく、宛てる場所を失くした言葉の残骸が
あの言葉を私の中に吸収させる。
それでも性懲りもなく送られる私の声は、まだ暫くは途切れないだろう。

だけどいつかこの喉が嗄れたなら、そのときはこれだけを望みたい。
君で成る世界から見上げた夜の空に、二人の月が在ることを。